失恋デート

失恋2日後、まだ胸の傷は癒えぬが、今日も今日とて星は降る。クリスマス・イヴ。

ついに振られてしまった、と思う。真偽のほどは定かではないが。f:id:yasu302K0:20161224203418j:image

22日にデートをして来た。1週間ほど連絡を取ってなかった先輩を夜ご飯に呼び出して。久しぶりのデートなのに待ち合わせの時間を間違えて、1時間半も遅刻したわたしには、先輩はいじわるだった。ちょっと冷たいことを言う、ツレないあなた。どうして最近構ってくれなかったんですか、と聞くと、だって連絡寄越さなかったでしょう、って。なんてひと!連絡を絶ったのはそっちのくせに。だから今回は私から誘ったのに。

でも、わたしが男友達とラーメンを食べに行った

 

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から先輩は陰で妬いていたということを、友達にこっそりと教えてもらっていたので、わたしは少し気分が良かった。自分のことを好きなひとに気にしてもらえるというのは素直に嬉しい。でも、それがもとで今回はこじれちゃったのかもしれない。反省。

 

6時半、新宿駅東口。待ち人、探し人、逢瀬人。先輩はわたしのことを先に見つけてくれた。わたしは先輩のことを見つけられなかった。

わたしのリクエストはハンバーグ。でも本当は何だって良かった。ハンバーグでもオムライスでもお寿司でも、なーんでも良かった。先輩とご飯を食べるのが目的だったから。優柔不断だなぁ、なんてあなたは呆れるけれど、そうじゃない。好きなひととご飯を食べたくて何が悪い。

 牛肉とソースの焼ける匂いの列に並びながら、わたしたちはぎこちなく喋り続けた。店外にまで延びる行列の待ち時間は長かったけれど、1週間のロスを取り戻すには少し足りなかった。

 

ふたり、きっと同じ、確信めいたものを感じ取りながら、けれどそれに触れることなく、どちらも、お互いが弾けさせる時を待っていたんだと思う。

 

ご飯の後、カラオケに行くことになった。歌舞伎町、夜の街、喧騒の中。その中の閉ざされた狭い防音個室は、まるで忙しない宇宙にぽっかりと浮かぶ宇宙ステーションのようだった。大画面を見ながら流れる星々のメロディーを歌う。小空間だけに存在するルール。一見安全で、楽しくて、愉快に思える小さな部屋だけど、実は一歩外に出ると息すらできない厳しい環境で、危険だらけの場所にぽつんと取り残されているということに気づくのだ。

わたしは何を歌ったっけ。aiko阿部真央絢香…大好きないきものがかりの『コイスルオトメ』を歌った時、懐かしいなあ、と言って曲名をメモしていたのを見た。ねえ、家に帰ってからダウンロードしてくれた?『貴方の恋人になりたいのです』の2番が終わったところで、上手いじゃんと呟いた、あなたがすき。

終了時間を告げるコールに、30分追加で、と先輩が言った時、わたしは嬉しかった。嬉しい、嬉しくて、でも好きですとは言えなかった。言ってほしかった。

おふざけで首筋を触られた時、ゾクリとした。それは、嫌な感覚じゃなかった。程よい白さですらりとしている先輩の手は、すごく綺麗だ。指も長くて爪まで形が良い。わたしは自分の手がそんなに綺麗じゃないから、単純に羨ましいのもある。でも、それだけじゃない。

その手で、その指で、わたしの手を、肩を、頭を、撫でてほしい、触れてほしいと訴える気持ちに一体何と答えよう?

 

カラオケ店を出た後、歌舞伎町の街をぐるりと歩いた。深夜の風俗街を後輩女子とぶらついていたというのに、あのひとは結局最後まで手出しをしなかった。ラブホ街に入っても、手を繋ぎもしなかった。抱きしめるくらい、してほしかった。

 

じゃあね、おつかれ、と去って行く後ろ姿に、ああこれが答えか、と思った。

クリスマス・イヴ2日前に、少しの勇気を出してデートに誘った、その答え。実質振られたと同様だなぁ、なあんて考えながら、本川越行きの急行列車に乗り込む。師走の街を夜まで過ごした人々を郊外の家まで送る電車に、あんまり急がなくていいよ、と声を掛けた。シルバーと青の無機質な車体からはやっぱり返事がなくて、当たり前だけど、でもちょっぴり寂しくなった。

 

挿入画像はThe Peace(http://www.tabako-sakuranbo.co.jp/sp/goods/group.php?cc=c01&gc=g06)。

このタバコはバニラの味がするんだよ、と先輩はわたしに教えてくれた。

歩道橋の上から

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30メートル間隔で規則的に並ぶ柱たち、

少し前まではひとの暮らしの証だったもの。

10両編成で休みなく走る黄色い車両、

運んでいるのはヒトやモノだけじゃない。

2人を乗せた空色のマーチ、

土曜日と共に夕闇の中へ溶けてゆく。

小金井街道の向こう、あなたの家まで伝うすべてのものは、同時に、この先にある知らない誰かの営みを想起させるものでもあるということを、この歩道橋を渡る度に、わたしはきっと思い出すのだろう。

 

 

 

わたしはちょっと怒っている。

わたしはちょっと怒っている。

世間はもう直ぐクリスマスだというのに、幾らも声をかけてくれない君に、わたしはちょっと怒っている。

そりゃあね、わたしはいつも君の前ではツンと澄まし顔をしているように見えるのかもしれないけれど。

それは

可愛い顔でいたいからじゃないの。周りの女の子たちよりも大人らしく見てほしいからじゃないの。大勢の中からわたしを見つけてほしいから、背筋を伸ばして真っ直ぐ前を見ているんじゃないの。

それを

分かってくれない、気付きもしない、挙げ句の果てには知らんぷり。

 

わたしはちょっと怒っている。

どうしてか分かる?君のことが好きだからよ。

世間はもう直ぐクリスマス。

まさかわたしの口から言わせるつもり?冗談はよしてよ。

 

世間はもう直ぐクリスマス。

ですよ、先輩?

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残酷なこと

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今日、ひとりの男子に本を貸した。

鞄から取り出したその本が彼の手に渡った瞬間、後悔の二文字が頭をよぎった。ああ、やってしまった、と。彼は友達なのだから、友達として付き合っているのだから、彼に本を貸したりなんかしてはいけなかったのに。わたしの軽率な行動のせいで、これから彼を傷つけなくてはならなくなってしまった。でも、しょうがない、これからもふたりが友達でいるために、わたしは打ち明け話をした。

 

彼を夕飯に誘ったのはわたしの方だった。彼は二つ返事で誘いに乗った。彼と並んで歩くのは、そういえば初めてだったけど、わたしたちはなかなかにお似合いだったと思う。神保町の古本屋のおじさんだって、きっとそう思ってくれてたはずだ。

 

連れ立って入ったラーメン屋で、わたしたちはポツポツと話をした。別に話すことなんて無かったのだけれど。あくまでも、今回の目的は彼とご飯を食べる、その時間を共にすることだったから。

それでも、わたしたちはラーメンをすすりながら幾らかの話題を交換した。新しく習ったダンスの足型だとか、間近の大会のこととか、学部のこと、兄弟のこと、趣味のこと、最近読んだ本のこと--ここでわたしが、今持ってるよ、なんて言って本なんて取り出さなければ、彼に隠したナイフを突き立てずに済んだかもしれないのに。いや、どのみちわたしの口から言わなければならないことだったのかも知れない。ただ、時期が早まっただけで。

 

彼に渡したのは恋愛小説だった。『きみはポラリス』。この短編集がわたしのこころに残した無数の引っ掻き傷を彼に見せようとして、止めた。彼にも、残したい、わたしと同じ傷を。

抱いてはいけない感情。渡してはいけなかった本。

 

電車で読むね、と笑顔を向ける彼に、わたしは告白しなくてはならなくなった。

わたしに、好きなひとがいるということを。

 

 

最近連絡がないの、とか、相手に踏み込めないの、とか、彼とわたしの間にはおおよそどうでもいいことをペラペラと喋った。だって、どうしようもなかったんだもの。

彼に本を貸してしまった。彼にこころを見せたいと、彼と傷を共有したいと思ってしまった。でも、あなたに傷つけられるのは、わたしどうしても耐えられないの。だから、わたしから言うの。

 

好きなひとがいるの。って。

あなたは友達なのって。友達で、いさせてほしいのって。

 

彼の喉元を切り裂く時、わたしはきちんと笑えていただろうか。自分勝手で、狡い方法で、ふたりの間に引かれたひとすじの線は、真っ赤な線。彼の血の色。

 

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 ゆっくりで、いいよって、言えたのはそれだけで。

 

もしわたしが猫であったならば

f:id:yasu302K0:20161216001803j:imageもしわたしが猫であったならば、もしくは明日が金曜日でなかったならば

 

わたしはあなたとの距離を縮めることができたかもしれないのに

こんな言い訳に頼らずに済んだかもしれないのに

 

ねえ、まだ起きてますか、今から電話してもいいですか、