読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

雨の夜

f:id:yasu302K0:20161214013220j:imageあなたに向ける感情は、いつだってもっとも美しいものでありたい。

もっとも美しい感情--それを文章化する手段を手に入れるにはまだまだ時がかかりそうだが、それと逆の感情、つまりもっとも苦しい感情ならば、わたしは既に知っている。

 

申し訳ないと思うこと、その気持ちをあなたに向けること、それこそがもっとも悲しいものだということを、わたしは知っている。『悲しい』と『苦しい』は実はいちばん似ている言葉だ。

 

例えば、あなたの好きな本を知ってしまった時、わたしは期待と憂惧の狭間でその本のページをめくるだろう。そしてあなたが愛する世界線をこの目で追うごとに、胸の締め付けられるような思いを抱く。暗く深い森の地図を見つけたときや、瓶詰めの手紙が海の向こうの見知らぬ誰かから届いたとき、ずいぶん昔に失くしたボタンを見つけたときに湧き上がる気持ち---誰にも言いたくないのに、誰かに知らせたい、そんな気持ちはわたしの心をギュウッと締め付ける。幸福感よりも、悲愴感が勝るほどに、痛みを感じる強さで。

 

小さい頃は、夜は1日の終わりで、夢を見ている間に今日という日はリセットされて、朝を迎えるものだと思っていた。毎日が新しい今日で、明日はいつだって明日だった。

でも、大人になりかけの中途半端だったわたしは、夜更かしを覚えてしまった。

そうして、夜に終わりが無いことを知った。今日はいつまでも今日で、いつまでも明日にならないことを知った。

すべての時間はひとつづきで、どこかに終止符があるわけではなくて、それが、これからもずっと続く日々で、ずっと、ずっと、

 

死にたい、と思った。気付いた日から、今までずっと。絶対に死ねないわたしが、死にたいと思った。ごめんなさい、ごめんなさい、実行する勇気なんかないくせに、それでも心奥は常に死に向かっているの。そしていちばん卑怯なのは、この胸のうちをあなたに明かせない、いいえ、明かさないわたし。

 

あなたに向ける感情は、いつだってもっとも美しいものでありたい。

そんなの、嘘だ。わたしはそんなに強くない。わたしは、せめてあなたが要らないことで傷つかないように、苦しい感情を見せないようにしよう。それが、あなたを愛していると伝えるための、わたしなりの手段なのだ。

あなたを暗がりに呼び込む必要はこれっぽっちもない。たとえわたしがあなたを好きで、あなたもわたしを好きだとしても。

 

雨の夜、冬の日、月と星は影をひそめる。